lothar’s diary

社会人3年目のSE雑記ブログ。毎日20時更新

全部燃やしてしまえ!【華氏451度】

本を読むことが禁止された近未来。主人公であるガイ・モンターグは違法に所持した本を燃やす昇火士という仕事に就いていた。日々の職務で積み重なる不満や疑義に蓋をして無思考に生きていた彼だが、普通では無い少女や本のために死ぬ老婆との出会いで、本に興味を持ってしまう。そうして決定的な行動に出た彼の人生は、一夜にして劇的に変わる。

 

ーーそんなあらすじの近代SFの名作と呼ばれる「華氏451度」。僕がこの本を興味を持ったきっかけはヨルシカというアーティストの「451」という楽曲。思っきしこの小説をテーマにしている。

 

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先日古本屋で偶然にもその本を見つけて、生活の合間でちょこちょこと読み進め、読了。すごく面白い本だったので、感想をまとめておきたい。

 

ーー以下、ネタバレあり。

 

 

まず最初の感想としては、この小説、最初がかなり読みにくかった。1つ描写したかと思えば、動詞もなく次の行動へ。SF的なアイテムは全て誰もが知っているかのような口ぶりで比喩だけで語られる。時間はすぐに飛ぶ。今がなんの場面か分からなくなる。そんな感じ。

最初は「翻訳がめちゃガバいのか?」と思ったが、そうでないことは読み進めるとわかる。段々と、読める文章になってくるのだ。逆に主人公以外の人物ーー特に妻の発言なんかはよく分からなくなっていく。このじんわりと変わっていく感じがまず非常に面白かった。

 

これが表しているのは、最初の方の文は「何も考えていなかった」ということだ。ただただ描写を連ねるのみ。何も思考がないから文脈も散逸する。そしてそれが本作の世界では一般的な人の頭の中なのだ。

主人公のモンターグも最初はそんな一般的な側だったのに、物語が進む事に異端な「考える」側に寄っていく。小説なんて読む物好きは今の世界でも考えるのが大好きなので、地の文に思考が加わることでかなり読みやすくなるのだ。まずこの体験が面白かった。

 

そして、この体験の理由となる世界観にも触れねばならない。この世界では人は思考しない。逆に思考は人を不幸にするもの。そのきっかけを与える本は人を傷つけるものとされている。

それだけ見たら、政府が何も考えない市民の方が便利だから、そういう風に仕向けたのか?と思うが、実情はその逆。市民側から本を手放した。本で語られるものは何かを必ず傷つける。故に誰かを傷つける思考はほっぽって、何も考えず、ただ楽しむだけの社会にしてしまおう!市民からそう言い出して、政府は「昇火士」という仕事でそれを後押ししただけなのだ。

この部分はよく現代社会の風刺やら未来予想図と言われる内容である。ファスト映画やら、ショート動画やら、圧縮された快楽だけ味わって、思考を置き去りにしているような、スマホで簡単に見れるそれと、この社会の一般人の過ごし方はそう大差ないのではないか?と。

 

しかしモンターグはそれらを全て燃やし尽くす。考えるなと洗脳する上司がその象徴であり、彼は終盤、その上司をその手で文字通り燃やしてしまう。これは体制に対する反逆の火という比喩が適切だろう。

そして面白いことに少数派になってしまった世のインテリたちも同じことを思っている。自分たちはやらないけど、いつか戦争という大きな火が現状を燃やし尽くす、と。その後で本を作り、このような過ちを起こさないように思考を与えていかなくてはならない。そんなふうに思っている。

 

この物語の最後には、その通りになる。モンターグのいた街は1つの爆弾で平らになる。いわゆる爆発オチ。現状も燃やし尽くして、後にはインテリだけが残る結末だ。

僕はこの結末が非常に皮肉に見えた。本を燃やされることに苦しんでいたインテリが望んでいたことも、結局何かを燃やすことだったのだ。思考があっても、行き着く先はそこだった。いくら引用を重ねても、望んでるのは思考を捨てた人と同じだったのだ。

 

そんな奴らが『おれらは思考するからちょっとずつでも賢くなってくんだ』と宣う。自分らは燃やされないだろうと安心しきって。

モンターグは自分が焼いた上司のことを「死にたがっていた」と推測したが、僕は彼は「死ぬと思ってなかった」んじゃないかとも思う。死にたいと思いつつ、「までもこいつには俺は燃やせないだろ」と。まだ自分の番ではないだろうと思っていたのではないか?

 

この物語のメッセージを素直に受け取るなら、「思考は大事だよ。燃やされてもそれを持つ人がいれば残り続ける。それがあれば、きっと良い社会に近づいていける」なんだけど……個人的には「賢ぶっても、阿呆でも、結局求めてることは同じ。全部燃やしてしまえ!」っていう風に受け取れた。

 

火は全てを浄化する。それは思考に限らず、状況も、人間も、社会すらも焼き尽くす。もほんとそれだけ。そんなディストピアが続きそうな結末だなぁ、なんて思いました。