いよいよ引越し当日……なのだけど、引越し業者が来ない。もう予定時間は30分ほど過ぎている。来る前に電話するとは言っていたけど、まだ何も無い。おっかしーなー、と思いながらゴロゴロしていると、スマホが震える。おっ、業者か。
「すいません、午前中の作業が押してて!あと1時間くらいかかります!」
電話先の業者さんはマジで申し訳なさそうにそう告げる。まー、今日はこれしか予定ないし、遅れても特に問題ない。「全然大丈夫っすよー」とだけ返して電話を切る。
そんで1時間後。トラック2台で業者がやってきた。「今日はよろしくお願いします」と、めちゃくちゃ元気のいい声で言われた。エネルギッシュだ。荷物を確認し、さっさと持ち出していく。作業はあっという間で、15分位で部屋が広くなった。業者さんから「梱包完璧だったんですぐ終わりました!」と褒められた。向こうでの到着時間だけ告げて、トラックはさっさと帰っていく。
残されたのは、夕陽差し込む空っぽの部屋、少しの荷物、そして僕。白いカーテン越しに差し込む夕陽は、僕を無理やり感傷的に変える。
こういう時に僕は、必ずヨルシカを聴く。ヨルシカが大好きなのはあるんだけど、こういうエモーショナルは情景とヨルシカは非常に合うのだ。詩書きとコーヒー、チノカテあたりがこういう時はオススメ。別れやら、終わりのもたらすエモーションに浸るのを助長してくれる。センチメンタルな自分に酔わせてくれる。これでバレエでも踊れたら完璧かもだけど、残念ながら僕はダンスは全くで……と言っても誰が見ているわけでもないから完璧なんて求めなくてもいいけどね。1人で、感情に浸っているだけ。僕自身の物語の、ひとつの終わりをちょっとした行動で彩るだけ。ただ、それだけ。
数曲流して、家を出る。このまま友人宅で1泊して、明日飛行機で福岡を発つ。その前に退去立会があるけど、その後はもう二度とここには戻れない。換気扇のスイッチを消し、備え付けエアコンのリモコンを出窓の日が当たらないところに置く。
荷物を持って家を出て、鍵をかける。
「さようなら」
ここ数日で何度も吐いた言葉を冷たいドアに投げかける。
別れと終わりのエモーションを置き去りにして、僕は我が家を出た。