いよいよ福岡を旅立つ日。現在の住居の退去手続きを済ませて近くのコンビニでコーヒーを飲んで一息つく。
今日は一時過ぎにフライト。今は午前十時だから、あと3時間くらい。今日は先輩が車で空港まで送ってくれるそうなので、ここで待っている次第である。大学4年間お世話になった先輩なので「送っていこうか?」と言われたら二つ返事でOkしたんだけど、今になってちょっとめんどくなってきている自分がいる。
というのも、その先輩は「妖怪軽率おセンチ男」というあだ名が付くくらいにはセンチメンタルな雰囲気が好きなのである。二人で車乗ってるとなんか感傷的な雰囲気をいつもにじませて来る。
おセンチなのもたまにはいいな、と思うけど毎回それをやられるとさすがに面倒になってくる。ってなわけで、最近は先輩がおセンチな雰囲気を出してくると「まぁーたですか?」と突っ込むのが定番になってきているくらいである。
普段からそんな感じだから、今日は間違いなくおセンチ全開で来るだろうって考えると、なんだかなー……ちょっと面倒だなーなんて思っちゃうんだよね。
――そんなことを考えていると見慣れた車が停車する。先輩の車だ。
助手席に乗り込んだら見慣れた顔。まぁーこの顔見るのもこれが最後になるかもですけどね。
先輩の走らせる車で空港に向かい始めて5分くらいだったかな?始まりましたよ。いつものやつ。
「なんか……こうこみ上げるものがあるな」
なんて言い出しちゃって。もー予想通りすぎますね。「4年間どうだった?」とかいかにもそういう雰囲気になりそうなこと聞いてくるし……
なーんかね。こう……自然にセンチメンタルになるのはいいかもなんだけど……なーんか違うんだよねぇ。なんか作られたおセンチみたいな。そんな感じに見えちゃって素直に乗れないんよね。
空港に着いて、手荷物渡して、お土産買った後もそんな感じ。微妙にセンチメンタルになりそうでならない雰囲気。「時間あるから展望台いかない?」なんて言われると「あー!そういう場所の雰囲気でおセンチになろうとしてるでしょー!」って言いたくなっちゃう。
最後手荷物検査に並ぶときも、なんか別れの悲しみ的なのを匂わせるのが嫌で「じゃあ今日は車出してくれてありがとうございました!またー!」って一方的に言って並んだ。だってそこで引きずるとなんかさ、絶対おセンチになるじゃん。
--飛行機に乗り込んで、窓の外の景色を眺める。
さっきの先輩との最後のやり取りを思い返す。なんか、僕が素直じゃないなって分かってはいる。ちゃんと別れを惜しんで、きちんと別れを告げる方がいいだろうに。それで感傷的になってるのを先輩に見られるのが嫌で、素っ気なくしてしまった。いつもやってたやり取りもこれで最後になるかもしれないのに。
「最後くらい付きやってやればよかったかな」
--なんて思って呟く。