これまでのあらすじ
#春から社会人な僕は上京した時の新居を見つけるために関東の祖父母宅に来ていた!
--1時間近くの空の旅を終えて、ようやく祖父母宅に到着。まぁ去年の2月にも来たし、特に代わり映えもない。……と思ってたんだけど、なんか物足りない。なんだっけなんて思いながら見回して気づく。
あー、犬がいない。
祖父母宅にはダックスフンドが1匹いたハズだ。しかし今、祖父母宅にその姿はない。去年来た時には、もう老眼で目も見えなくなっていながらも僕のことを覚えていて足に引っ付いてきていたのを覚えている。
何があったかを判断するには、充分すぎる。
去年祖父母宅に遊びに来た時に、祖母が言っていたことを思い出す。
「これが最後かもだからね」
--うん。そういうことだろう。
そう納得して、一松の寂しさを覚えた。
旅装を解いて、遅めの夕食を居間でいただく。なんか祖母がおでんを用意してくれていたそうだ。祖父と食べている間の会話がとても切なかった。
祖父「くま(犬の名前)。ご飯だよ」
祖母「何言ってんの、もうそこには居ないのよ」
祖父「あぁそうだった」
さすがにそんな会話に混じることは出来なかった。食事中もずっと犬の話をしていた。もうなんかいたたまれない気持ちだった。僕が小学生の頃から飼っていて、確か去年は15,6歳の超高齢犬だったと思う。数年に1回しか会わないのに、僕に対する反応が初対面のそれではなく、匂いで覚えてるんだね的なことを祖母に言われた記憶がある。
それくらいの関わりしかない僕には、祖父母の抱く感情は計り知れない。
ただ、当たり前にいる気のしていたものが居なくなった寂しさを僕は感じてる。ドックフード用の皿や、お気に入りだったボール、今は使われないからと無造作に置かれた柵。今でも痕跡は残ったままだ。祖父母はきっとそれを見る度に思い出すのだろう。
スマホのフォルダを眺めていたら、去年来た時に撮った写真を見つけた。
なんか撮るの下手くそ過ぎやしないかい?もっと正面から撮るとかさぁ、あるでしょ?と、去年の僕に文句を言っておく。この時も昔ほどもう元気ではなかった覚えがある。
--何となく寂しい。そりゃあ人間相手ほど悲しくは無いかもしれないけど、いつか来る悲しい別れの1つだな、とそう受け入れるしかなかった。