ある時ふと、小説を読みたくなった。中学高校の時は飽きるほど読んでいた小説だけど、大学になってからは論文しか読んでいなかったし、社会人になってからはソースコードしか読んでいなかった。
しかしふと、読みたいな……と思った。活字を読みたいな。そう思った僕は仕事帰りにTSUTAYAに寄った。なんか良さげな小説ないかな、と探してみる。
……ん、これなんかよさげ。なんも分からんけど買っちゃお。っていうノリでジャケ買いした。それがこちら。
「傲慢と善良」辻村深月作。
映画化とかどうでもよかったけど、なんか気になった。フィーリングあったのかな?
とりま、本なのだから読んでみないと始まらない。というわけで合間の時間や夜寝る前を使ってのんびり読み進めた。
あらすじとしては、主人公西澤架の婚約者・真実が失踪した。彼女にはストーカーがいたという話を聞いていた架は彼女の手がかりを求めて、彼女の過去関わってきた人を尋ねる。
そんな感じ。一言で感想を言うとすると「気持ち悪い」でもこれは褒め言葉である。人間の根幹にあるエゴイズムみたいなとこを「傲慢」と「善良」という言葉を使ってありありと描いている。
傲慢とは選ぶ側の人間の、自分のことは棚に上げて選ぶ感覚。自分の価値を大きく捉えすぎてしまう、という感覚。
善良とは選ばないこと。嘘をつかないこと。そうして世間知らずのまま、流されるままに生きること。そんな風に語られていたと思う。……いや、これすらもその言葉の孕む意味の一部だけだろう。
主にこの二面から結婚という社会契約に関わる人間性的なものをエグいくらい正確に描写している。それが中々心地よかった。
出てくる人間の誰もに、自分勝手だったり、世間知らずな面がある。それがその人の悪い部分だとしても滲み出るように描写する。特に真実の母は凄かった。世間知らずの善良の中で育った傲慢を後生大事に持っている感じで、とても気持ち悪かった。でもそんな人いるよな……と思わせるリアリティがある。
ちょっとネタバレになってしまうのだけど、この物語はハッピーエンドだ。なんだけど、正直僕は気持ち悪さをぬぐえない。ヒロインが善良9傲慢1くらいだったのが、善良3傲慢7くらいになって垢抜けただけの話だ。強いて言えば、ヒロインが嫌いと言っていた他のキャラクターに近づいただけのように思える。
逆に主人公は傲慢さが抜けたように思う。でも彼の持つ善良さは依然と変わりないようにも見える。彼の目線から話を見てるので彼自身に気持ち悪さを感じることは少なかったが、彼も他人から見れば充分に気持ち悪い心理を持つキャラクターとなるのだろう。
そんな気持ち悪さとエモーショナルを同時に感じさせるようなエピローグが良かった。久しぶりに読んだ小説がこれでほんとに良かったと思う。
他にもこんな味の小説があるなら読んでみようかな、とも思えました。